2010年4月20日火曜日

第3回 議員力検定試験 一般1級・議員1級 記述・論述式問題例題および事前公開問題

 第3回議員力検定試験の一般1級と議員1級の記述・論述式問題3題につきましては、以下に掲げる例題に類する問題を出題いたします。また、そのうち各1題については、以下の「事前公開問題」として、第3回議員力検定試験に出題いたします。「事前公開問題」は、受検者のみなさんの事前調査および学習の成果を問う問題とします。

【一般1級 例題】
問 あなたが住んでいる市で、自治基本条例の制定に向けて、公募による市民参加の委員会が市長の附属機関として設置されて素案の策定作業が始まり、あなたもそのメンバーになりました。市民委員会としての最終的な素案を策定するまでの間に、議会とのコミュニケーションをどのようにとっていくべきでしょうか。市民の意図する内容の条例が制定されるようにしていくために、市民委員会として議会に対してどのようなアプローチをしていくのが望ましいと思うのかを、500文字以上600文字以内で述べてください。
《趣旨》
 条例についての議決が住民の代表機関である議会の権限であり、参加を本人が希望した市民の集合である市民参加組織との、担っている役割の違いの認識が明確かどうか。また、首長の附属機関として設置された市民参加組織が、議会条項をどのように提案していくことができるのか、議会とコミュニケーションをとる際に、説得力をもって市民会議の提案内容を説明できることが求める問題です。議会条項については議会に策定を委ねるという方法もあり得るが、その場合には、市民が議会に求めることについて、どのように議会に伝えていくのかについての説明が必要です。

問 「地方選挙の投票率は、全国的に見ても、押し並べて、低下してきています。特に、大都市部での投票率は、低いレベルにとどまっているようです。たとえば、東京都議会議員選挙や都知事選挙でもこの何回かは50%前後にとどまっています。もちろん、ときに社会的政治的に注目される事情があると投票率が上がるようですが、半分以上の有権者が棄権をする事態は、民主主義の政治制度を運営するという観点からは、問題があるのではないでしょうか。これまでにも、投票率向上のためには、選挙への関心の啓発や、政治教育の必要性、あるいは義務投票制の導入などが指摘されてきました。投票率を向上させることの意義、そのために取るべき方法およびそれを選んだ理由について、500文字以上、600文字以内で論述してください。
《趣旨》
 選挙は、代表制民主主義を成立させるための基本的な仕組みの一つであり、民衆の支配を実現する主たる装置です。そこで、選挙に行くことは、国民主権原理に基づく参政権の行使でもありますが、同時に国民の義務であるという考え方もあります。
ところがこの選挙の投票率が、日本の場合、戦後改革で民主化が進んだ当時から、この60年ほどの間に低落してきています。それでも衆議院の総選挙では、60%前後の投票率があるのですが、地方選挙では大変な落ち込みようのところもあります。20%台あるいは30%台の知事選挙(たとえば2010年4月の京都府知事選挙は30%台半ば)がありますし、大都市の地方議員補欠選挙では、ついに10%を切ったところも出てきました(同じく2010年4月の広島市の事例)。代表制民主主義がよって立つ正統性の基盤が崩れつつあるということもできるかもしれません。
この問題は、地方自治におけるこうした投票率の低落や低迷をどのように考えるのか、そして投票率を向上させるとすればどのような方法をとるのが選挙の本来の趣旨に沿うのかを考え、論じていただくためのものです。

【一般1級 事前公開問題】
問:あなたは、国・独立行政法人・自治体に対して、情報公開請求をしたことがありますか。あるのならば、その具体的な請求内容と結果を、ないのならば、あなたの住む自治体の情報公開制度について、説明してください。
《趣旨》
情報公開制度は、法律や条例に基づいて、国や自治体の機関が保有する文書や記録類を、市民が請求して閲覧できるものです。法律や条例に決められた例外(非公開事由)に該当するものでない限り、全ての文書や記録類を見せてもらうことが権利として認められています。
 なぜ、このような制度がつくられているのでしょうか?
 情報公開請求をしたことのある方は、その経験を紹介して、どのように活用できたのか、また、問題点や感じたことを率直に論じてください。
 情報公開請求したことのない方は、あなたの住む自治体の情報公開制度について調べて、毎年、何件くらいどのような内容の情報公開請求があり、市民が活用しているのか、非公開になった場合、どのような対応策があるのか、また、情報公開請求が全くない自治体についてはなぜ活用されないのかについて、調べて論じてください。
 これを機会に、気になっている課題について役所に情報公開請求をしてみるのもよいでしょう。

【議員1級 例題】
 あなたが議員をしている市で、自治基本条例の制定に向けて、公募による市民参加の委員会が市長の附属機関として設置され、素案の策定作業が始まりました。審議会等への議員の参加は、法定されたもの以外は控えるという方針をとっているため、委員会には議員はまったく参加していません。この条例の策定過程で、議会としてどのような対応方法をとるべきでしょうか。500文字以上600文字以内で述べてください。
《趣旨》
 市民参加型の政策立案過程に対する、あるべき議会の対応方法について回答を求める問題です。議員が個別に検討機関に参加することには、その議員の立場(議員個人としての参加なのか、機関としての議会を代表してなのか)、その後の議会の審議権との関係などの問題があることを認識できているか。他方、機関としての議会として市民参加組織と意思疎通を図ることは可能であり、栗山町総合計画や、上越市自治基本条例の策定過程などが事例としては伝えられています。このような手法を含めて、機関としての議会が、どのように政策立案過程に関与することが可能であり、また望ましいかについて述べることを求めています。

問 2005年には建築確認をめぐる重大な事件が発生しました。以下のような経緯を参考にして、建築確認制度に求められる改革の提案を、その理由や根拠を含めて、500字以上600字以内で論じてください。

 構造計算書偽造問題として知られる事件は、2005年11月17日に国土交通省が、千葉県の「姉歯建築設計事務所」の元1級建築士が構造計算書を偽造していたと発表したことで広く知られるようになりました。偽造された構造計算書を民間の検査機関(指定確認検査機関)が見抜けなかったことが発端でした。
 その後事件は大きく広がり、多くの偽造が見つかることになりました。そして、マンションの居住ができなくなったり、ホテルが営業を取りやめた例も出てきたのです。
 問題の構造としては、建築事務所が偽造の構造計算書を作成します。そしてこの計算書が建物の建築確認・検査を実施した民間の指定確認検査機関を通過します。しかし実際には、建築基準法に定められた耐震強度を満たさず、震度5強程度の地震で倒壊のおそれがあるマンションやホテルなどが建設されたという問題です。ちなみに、阪神・淡路大震災では最大震度7の揺れが観測されています。
 警視庁は千葉県、神奈川県と合同捜査本部を設置して捜査に乗り出し、事件名を「耐震強度構造計算書偽装事件」と命名しました。
 この事件で注目されたのは、いわゆる「建築確認・検査の民間開放」でした。建築基準法が1998年の法改正により、それまで地方公共団体の建築主事のみが行なってきた建築確認、検査事務を、民間の指定確認検査機関(同法第77条の18 - 第77条の35)が執行できるようにしたのです。株式会社を含む民間機関による確認・検査体制が導入されました。当時、日弁連などは「営利目的の検査機関」が公正中立ではありえないと法改正を批判していました。
 こうした「建築確認・検査の民間開放」の背景には、いくつかの理由がありました。一つは、建築物の着工件数に比べ、建築主事など職員の絶対数が不足していたことでした。そして、完了検査や違反建築物の取り締まりなどを的確に行うことが困難な状況が生まれていたことでした。そこで、建設大臣(国土交通大臣)または都道府県知事の指定を受けた株式会社を含む民間機関が従来の建築主事と同様に建築確認・検査を行う体制がとられたのです。
 ところで、建築確認申請は、建築基準法 第6条、第6条の2、第6条の3に基づく申請行為です。法に定められた建築物を、建築しようとする場合、建築主は申請書により建築確認を受けて、確認済証の交付を受けなければ建築することができないとされています。ただし、建築確認は特定行政庁(知事、市町村長)などが行う許可等とは性質が異なるものであり、これから建てようとする建築物が建築基準法令をはじめとした建築基準関係規定について適合するかどうかを機械的に確認する作業とされています。したがって建築主事に裁量権はないというのが基本的な理解です。
 なお、建築基準法は建築物の建築等に関する申請及び確認について、「第六条  建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(中略)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。」としています。
 事件それ自体は、刑事事件となりましたし、その後、耐震構造計算で偽造に悪用されたコンピュータソフトを改良し、民間機関の監視や監督を強化するなど、不正を防止するような建築確認制度の改善が進められました。
《趣旨》
 耐震強度計算書偽装事件については、まだ記憶に新しい方もいらっしゃるかもしれません。最初に明らかになった事件だけではなく、全国的にも類似の例が続いたこともあり、大きな社会問題になりました。そして直接の偽装問題だけではなく、建築確認制度の在り方に関する議論をも巻き起こしました。
 この問題では、耐震強度偽装の背景になった建築確認制度に関する法改正やその帰結にまで視点を広げて考え、適正な建築物の建設を可能とするような建築確認のあり方を論じていただくことを狙いとしています。
 この例題の出題意図は、建築基準法や都市計画法、そしてその運用についての専門的な知識を持っているかどうかを問うというものではありません。問題文が大変長いものとなっていますが、これは事件発生状況とその当時の議論を知っていただくためのものなのです。建築確認制度について専門的な知識がなくとも、この紹介の内容から、論理的に政策的な思考を働かせて、制度改革を論じていくことができるどうか、そうした能力を試そうとする出題なのです。

【議員1級 事前公開問題】
問:あなたの住む自治体の議会が請願書・陳情書を採択することによって実現した政策について1つ挙げて、その過程を説明してください。もし、そのような政策が無ければ、請願書・陳情書がどのような取り扱いをされているかを考えた上で、なぜ政策に結びつかないかを説明してください。
《趣旨》
国民の権利として憲法第16条は請願権を保障し、請願法が制定されています。自治体議会に対する請願の取り扱いは、地方自治法第124条と第125条に規定があり、議題として取り扱うことになっています。また、紹介議員の無い陳情についても同様な取り扱いをしている自治体議会もみられます。
 請願・陳情は、市民の意見を直接、自治体議会に届け、反映させる手段です。
 このように、議会で議論され採択された請願や陳情が、どのように議論されて、政策や制度として実現して行ったのか、具体的な過程を調べてきてください。請願や陳情の内容は、それぞれの議会の議会報やホームページで確認できますし、議会事務局で閲覧もできるでしょう。議会事務局を経由して、提出者や提出団体に採択された後の動きを問い合わせることも可能です。
 また、もし請願・陳情が採択されても、政策に反映されていないとすれば、それはなぜなのか。議会に問題があるのか、首長などの行政側に問題があるのか、それとも他の要因があるのかについて、検討してください。